コーラ片手に音楽を

好きな服、好きな音楽、好きな映画と。

"God Help The Girl"と"The Goodbye Girl"を比して② ―人はかよわいものですね―

どうも。ながたつです。

この記事は後編です。下記の記事を見てから、本記事をご参照くださいませ。

 

coke-and-music.hatenablog.com

さて、前置きなしでいきなり本題に参りましょう!!

今回は"The Goodbye Girl"のハナシ。

"The Goodbye Girl"のあらすじと感想

どことなく"God Help The Girl"と構図が似ている"The Goodbye Girl"(1977年公開)

f:id:naga-tatsu:20200329200640j:plain

あらすじ

マンハッタンのダウンタウン、元ダンサーのポーラと娘ルーシーはポーラの恋人トニーと暮らしていたのだが、ある日トニーが置き手紙を残し出て行ってしまった。俳優である彼は映画出演のためにイタリアに行くのだという。ポーラが付き合うのは役者ばかり。しかもみな良い役をもらうと彼女を置いていなくなってしまう。涙にくれるポーラのもとに、ある夜一人の男エリオットが訪ねてきた。トニーから部屋を譲り受けたのだというエリオットをポーラは追い返そうとするのだが、強引に押し切られ3人の同居生活が始まる。エリオットもまた役者で、ポーラは警戒するのだが...…。

かいつまんで言いますと、男運のない女の元に変な俳優がやってきて、それからドタバタ劇が繰り広げられるといったところでしょうか。安心して見ていられる王道ラブストーリー。

感想

1.登場人物のバランスが秀逸

この映画を見て、面白いと思ったのは配役。主な登場人物は、元ダンサーのポーラ・その娘のルーシー・役者のエリオットの3人。子連れの人と結婚してどーこーはあるものの、あくまで同居。また、子供のことを配慮しているようで微妙に無配慮なエリオットが笑えてきます。そして、キーパーソンはルーシー。

ポーラの男運のなさ故か、自分がしっかりしていなきゃと思っているのか、あまりに大人びている。子供であることを奪われているような様子が悲しくとも、それが可笑しい。子供に支えられる親というのは実に情けない話ですが、物語としてみると面白いし、また往々にしてあるんだろうなあと感じます笑親子というより同士かな?

ここまでだと、ませた子供とダメな大人という構図のの陳腐な話ですが、このルーシーが「子供として」大人に抗う姿もあるんですね。子供が大人に支えられ、大人が子供に支えられるこのバランスが秀逸でした。

2.恋愛の男女の捉え方のセンスの良さ

 ロマンスというのは、いつの時代も男女の感情の機微やすれ違いなど、コミュニケーションの不一致や難しさを面白がるものだと思いますが、この映画はそこを分かりやすく、象徴的に描いています。

ポーラは過去の恋愛に傷ついて、男性不信となりながらも、ついロマンスに浮かれてしまう好事家なところが。きっと恋愛体質なのでしょう。一時の感情に振り回され、ヒステリックになり、周りを混乱させる。分かっていながらも感情を自制できず、男運のなさの片棒を担いでしまってます。しかし、そのロマンチックなところは魅力の1つだし、直向きな姿には胸を打たれます。

一方、エリオットは意味不明なこだわりに執着する変わったヤツ。家の中で全裸で過ごしたり、狭いアパートでギターを弾いたり、よく分からん瞑想を始めたり…仕事に対しても激しいこだわりを持っているけれど、どこかが抜けている。しかし、人を見る時の冷静な観察眼はさすが俳優といったところか。そして、ポーラのヒステリックをただただ呆れるのではなく、きちんと指摘する姿は本当に素敵。変わっているけど、決めるところは決めるから、最後に幸せをつかむんだよねえ。。。

3.王道ラブストーリーだからこそ…

 僕はあえて、このポーラとエリオットを男と女の代表的な特徴を担ったものとして書きました。この映画は70年代の映画なので、このように整理して差し支えはないと思いますが、昨今は男も女もないでしょう。ポーラー的な男もいれば、エリオット的な女もいる。

それぞれの要素を1つの体に宿しているのだから、人間は面白くて、難しい。この難しさを分解して、それぞれの役に置き直しているから、本質が入ってくると思うんです。言い換えれば、だからこそ王道は王道になるのでは?僕は、王道といわれるのが大好きですが、その所以は、多くの人に受け入れられる普遍性と、鋭い物事の捉え方が内包されているためです。

ちなみに、この映画のテーマソングがめちゃくちゃいいので、ぜひ聴いてください!


David Gates - Goodbye Girl (Official Music Video) 

2つの映画を照らして浮かび上がること

さて、この記事は「"God Help The Girl"と"The Goodbye Girl"を比して」と銘打って書いています。そこで、次にこの2つの映画の共通点と相違点を整理して、なにか見えてくると期待しましょう笑

共通点

1.主要人物の役割

2つの映画も主要な登場人物は3人。各々の役割もなんとなく似ていると思います。以下には、対応する人物とそれに対するコメントを。

①イヴ(GHTG)―ポーラ(TGG)

2人とも、ロマンスの中に生きる人物で、相手の男を良くも悪くも翻弄しています。彼女たちが物語の中心として話を動かしていきますよね。2人とも恋愛のことになると我が道を行き、周りが見えなくなるような内向的な人物像が浮かびます。

②ジェームス(GHTG)―エリオット(TGG)

これは2人ともヒロインに振り回される男たちです。振り回された方はそれぞれ異なるけど、相手に思いを寄せたり、時に呆れたり。一喜一憂しているのは、変わらないでしょう。これを本気で楽しんでいるのか、しんどい思いをしているかは分かりません。僕は結局こういうのに振り回されるのを楽しむタイプ笑

③キャシー(GHTG)―ルーシー(TGG)

実は重要なのが③ではないでしょうか。2人の様子を俯瞰的に見て、口を挟んだり、黙って見守ったり、そもそもあまり関心がなかったり…いい意味で置物のようにいる。この役割があるからこそ、これらの物語がどこか可笑しく映ると思うのです。

ある意味観客と同じような立場の人物が作中にあると、話も分かりやすいし、シリアスさが薄れるようにも見受けます。メタ的なキャラクターがいることで、物語を楽しみつつも没入しすぎないバランス感覚を観客に与えているようでなりません。特に、GHTGのキャシーの天真爛漫さが、映画に「青春」のエッセンス加えてくれています。

2.恋する人の脆さ

恋愛をすると人間は弱くなるものだと思いますが、その様子をしっかり描いている映画を並べてみました。恋愛した時のみっともない感じ、楽しくて浮かれている感じ、寂しい感じ、色んな感情がマーブル模様を描いており、それが鮮明に映るから観ていて楽しいんですよね。

GHTGではジェームスのような男が、口では色々理屈をこねても、結局奔放なイヴに振り回されて、クヨクヨしていて…みっともないところもあるけど、そういうところってみんなあると思うんですよ。

TGGのポーラみたいなダメ〜な感じも男女問わず共感できると思います。浮かれて、裏切られ、人間不信になって…けど、コロッと次にいってまた繰り返して…これもまた多くの人に当てはまりませんかね?

結局、人間は恋愛の前では皆平等に初心者で、毎回同じようなことで一喜一憂するものではないでしょうか。そういう、真理めいたものを気付かせてくれる気がして、ロマンス映画を観るのがやめられずにいる今日このごろです笑

相違点

では、話を相違点に移しましょう。これもまた大切な気付きがあると思います。

1.主人公の孤独感

GHTGのイヴは孤独にいつも苛まれているように感じます。とても独り善がりで、自己肯定感もとても低そう。自分の気持ちをうまく保つことに対して不器用な人物なんだなってことが一目でわかります。そこに共感する自分を認めざるを得ません。物語の後半で、1人で過ごす休日に耐えかねておかしくなるシーンがありますが、あれはイヴの孤独感のメタファーだと思います。そもそも、性に奔放な姿も孤独の裏返しなのではないでしょうか…

対して、TGGのポーラには娘がおり、ダンス仲間もおり、孤独を感じることは少ないのではないでしょうか。家族が同じ屋根の下にいることが、ポーラを支えているのだと思います。映画の中でも1人でいるシーンが少ないように感じました。こうして比較してみると、思ったよりも人間を支える上で大切なことなんだなって痛感しました。

2.登場人物たちの未来

それぞれの映画では、エンディングの方向性が1番異なります。ネタバレにつながってしまうので、あまり書きたくありませんが、うまく曖昧にしながら、書いてみます。

人間は出会いと別れを繰り返し、くっついたり離れたりを繰り返して生きておりますが、2つの映画でもそれはもちろんあります。しかし、その距離感が示すものが大きく異なるように映りました。

GHTGではこの時が思い出の1つとなるような、そしてまた変わらない日常が戻ってくるような表現がなされ、TGGではこの時間が新たな生活の始まりを予感させるものでした。瞬間=空間を描いた前者と、歴史=時間をほのめかした後者とではもつ意味が変わると思います。だからこそ、この恋の意味も変わってくるものではないでしょうか。少しカッコつけると、前者の恋はやがてセピア色に、後者の恋はこれから彩りを与えていくような印象を受けました。どちらが良い悪いはなく、どちらも人生を豊かにしてくれることは間違いないです。

最後に

 以上、2つの映画を比較しました。正直、思ったより浅い考察となったことが悔しくてなりません。もう少し突っ込んだところまでいきたかったのですが、これが今の自分の限界ですので、潔く文章を締めましょう。しかし、映画をこうして観てみるのは本当に楽しい。

映画を見ているときって、その時その時のシーンに対する感動が自分を支配しています。その感動に丁寧に言葉を与えて、なにが素敵なのかを語ることも、立派な表現だと思います。その言葉を発信すれば、それを見た人に響くかも分かりません。

昨今、色んなイベントが自粛されています。それは仕方のないことです。しかし、映画に限らず人間に芸術は欠かせません。これだけは言い切れます。体は動かせなくとも、心と頭は動かせるはず。まだまだいろんな作品に触れないと。